集合トランプ

次世代のトランプ「集合トランプ」で遊べるゲームを紹介しています

集合トランプにまつわる集合の諸概念(基礎編)

前回の記事で、数学における 集合 を題材にしたカード「集合トランプ」を紹介しました:

さて、このカードを用いてゲームを遊ぼうとすると、どうしても「集合に関する知識」が必要になります。なので、数学に苦手意識がある方などは、このカードで遊ぶことを諦めているかもしれません。しかし、そう思うのはまだ早いです。集合に関する知識は、直感的に理解できるものばかりです! *1

以下では、集合トランプに関わる基礎的な知識を できるだけわかりやすく 伝えることを試みています。すこし数が多いかもしれませんが、ここで紹介されている知識を一度に全部頭に入れる必要はありません。これらのうち 1 つだけを知っていれば遊べるゲームもあります。集合トランプを通じて、だんだんと集合の知識を身に着けていけば、いつのまにか色々なゲームが遊べるようになっているでしょう!

目次

集合

集合とは「モノの集まり」です。これは集合トランプの説明記事でも触れているので、ここでは詳細を省かせていただきます。

属する

あるモノが集合に「入っている」ことを、数学では「属する」とカッコつけて呼んでいます。例を挙げると:

  • 集合  \{1, 3\} に属している数は  1 3 のみです。 2 4 5 は属していません。
  • 集合  \{4\} には、ただ 1 つ  4 だけが属しています。

なお、集合は「図にして描いてみる」ことで、そのイメージが掴みやすくなるかもしれません:

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集合  \{1, 3\} \{4\} の図

なお、数学では、ある  x というモノが  A という集合に属していることを、 \in という記号を使って  x \in A と表します。集合トランプで遊んでいるときにこの記号が現れることはありませんが、数学ではあちこちでこの記号が現れるので、説明だけしておきました

余談:"文字" はこわくない

ところで、ちょっと余談をさせてください。数学に苦手意識がある方は、 x とかの文字が現れると身構えてしまうかもしれませんが、こういう文字は、ただ単に モノに名前をつけている だけです。たとえば:

「ある数とある数を足した結果が別のある数になっていることは、最初の 2 つの数の間に  + を書き、それと別のある数を  = で結ぶことで表される」

という説明があったとします。でもこれ、なんかあちこちで「数」って言ってて、どういうことかよくわかんないですよね。そこで、この説明に出てきた「数」それぞれに名前をつけてあげると、次のようになります:

「ある数  a b を足した結果が別のある数  c になっていることは、 a + b = c と表される」

前の説明と比べて、いくぶんわかりやすくなっているのではないでしょうか。モノに名前をつけるということは、その区別ができるようになる という点で、とても大切なことなのです!

ですので、文字に苦手意識がある方も、モノにつけられた「名前」だと思って、ぜひ慣れ親しんであげてください~

包含関係

2 つの集合があるとき、その間に「含む / 含まれる」という関係が成り立つことがあります。これは、言葉で説明するよりも、具体例を見たほうがわかりやすいかと思われます:

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 \{1, 2\} \{1, 2, 4\} にすっぽりと収まる

この図は、 \{1, 2\} という集合が、 \{1, 2, 4\} という集合に含まれていることを表しています。言葉で説明すれば、「 \{1, 2\} に属している  1 2 という数が、どちらも  \{1, 2, 4\} に属している」ということです。

ちなみに、ある  A という集合が、 B という集合に含まれているとき、記号  \subset を使って  A \subset B と表すことになっています。この記号を使えば、上の例は  \{1, 2\} \subset \{1, 2, 4\} と表すことができますね。

別の例を挙げると、集合  \{3, 5\} は 集合  \{1, 3, 4\} には含まれていません。なぜなら、 \{3, 5\} に属している数  5 が、 \{1, 3, 4\} には属していないからです。図にすると、こういうことですね:

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 \{3, 5\} \{1, 3, 4\} に含まれない: 5 がはみ出している

こういう「含まれていない」という関係は、記号  \not\subset で表されます。たとえば、 \{3, 5\} \not\subset \{1, 3, 4\} といった感じですね。「等しくない」ことを表す記号  \ne のように、もとの記号に斜線を入れて表現しています。

集合の包含関係について、いくつか例を挙げておきます。含む・含まれるという考え方は、集合トランプでわりとよく出てくるので、ここでしっかりとそのイメージをつかんでいってください:

  •  \{2, 5\} \subset \{1, 2, 4, 5\}
    •  \{2, 5\} \{1, 2, 4, 5\} に含まれる、ということです。
    •  \{1, 2, 4, 5\} \{2, 5\} を含む、と言い換えることもできますね。
  •  \{1, 2, 3, 4\} \not\subset \{2, 3, 4, 5\}
    •  \{2, 3, 4, 5\} 1 が属していないので、 \{1, 2, 3, 4\} \{2, 3, 4, 5\} に含まれません。
  •  \{1, 2, 3\} \subset \{1, 2, 3\}
    • 同じ集合どうしには、包含関係が成り立ちます。言われてみると確かに、という感じですよね。
  •  \{1, 4\} \subset \{1, 2, 3, 4, 5\}
    • この右側にある集合には、集合トランプにおいて 全体集合  U という名前がついていましたね。全体集合  U は、どんな集合をも含んでいる という特徴があります。
  •  \emptyset \subset \{2, 3, 5\}
    • 実は、空集合  \emptyset は、どんな集合にも含まれています!これは言葉で説明するのがちょっと難しいのですが、「空集合に属しているモノはすべて、他のどんな集合にも属している」からです。そもそも、空集合に属しているモノなんて無い ので、それら(0 個)はすべて 他のどんな集合にも属しているじゃん!というトリックが働いているのです。

和集合

集合においても「和」を考えることができて、それは直感的に言うと 集合をくっつける ことです。 例えば、2 つの集合  \{1, 3, 4\}, \{3, 5\}和集合 は、 \{1, 3, 4, 5\} となります:

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2 つの集合(左)を「くっつけた」ものが、それらの和集合(右)

一般に、2 つの集合  A, B があったとき、その和集合は「 A Bどっちかには入ってるモノを集めた集合」として定めることができます。

また、 A B の和集合は  A \cup B と表記することになっています。上で示した例であれば、

 \{1, 3, 4\} \cup \{3, 5\} = \{1, 3, 4, 5\}

 
と書けるわけです。*2

いくつか具体例を記しておきます:

  •  \{2\} \cup \{1, 3\} = \{1, 2, 3\}
  •  \{1, 2, 4\} \cup \{3, 5\} = \{1, 2, 3, 4, 5\}
  •  \{1, 3, 5\} \cup \emptyset = \{1, 3, 5\}
    • 空集合  \emptyset には何も属していないので、他の集合にくっつけても何も変わりません。
  •  \{1, 2, 3, 4, 5\} \cup \{1, 4\} = \{1, 2, 3, 4, 5\}
    • 全体集合  U = \{1, 2, 3, 4, 5\} には既に(集合トランプで登場する)すべての数が属しているので、そこに何をくっつけようが、全体集合のまま変化しません。

共通部分

2 つの集合  A, B共通部分 とは、その名に違わず「 A Bどっちにも入ってるモノを集めた集合」を意味します。 例えば、2 つの集合  \{1, 3, 4\}, \{3, 5\} の共通部分は  \{3\}、ということです:

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2 つの集合(左)の共通部分(右)

わかりやすい名前なのはよいことです。他にも具体例を挙げておきますね:

  •  \{1, 4, 5\} \cap \{1, 3, 4\} = \{1, 4\}
  •  \{1, 2, 4\} \cap \{3, 5\} = \emptyset
  •  \emptyset \cap \{1, 3, 5\} = \emptyset
    • 空集合  \emptyset は空っぽなので、共通部分をとるとやはり空っぽになってしまいます。
  •  \{1, 4\} \cap \{1, 2, 3, 4, 5\} = \{1, 4\}
    • 全体集合  U = \{1, 2, 3, 4, 5\} には(集合トランプで登場する)すべての数が属しているので、他の集合と共通部分をとっても、元の集合のまま何も変わりません。

補集合

ある集合  A があったとき、その 補集合 というものが定まります。これは、端的に言えば「 A に入っていないモノすべて を集めた集合」です。具体例を挙げれば、集合  \{1, 2, 4\} の補集合は  \{3, 5\} です:

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ある集合(左)の「それ以外の部分」が、その補集合(右)

別の言葉で言えば、ある集合  A の補集合とは「全体集合  U から  A の部分を取り除いた集合」と言えますね。あるいは「くっつけると ピッタリ 全体集合  U になる」とも言えるでしょう。

ちなみに、集合  A の補集合は、ここでは  A^c と表すことにします。*3 この記法を用いれば、上の例は  \{1, 2, 4\}^c = \{3, 5\} と書けますね。

ところで、この逆の関係、つまり  \{3, 5\}^c = \{1, 2, 4\} が成り立っていることもわかるかと思います。このように、補集合の関係にある集合は、ペアをなしている ことが見て取れます:

 \begin{aligned}
\{1, 2, 4\} &\longleftrightarrow \{3, 5\} \\
\{1, 5\} &\longleftrightarrow \{2, 3, 4\} \\
\{3\} &\longleftrightarrow \{1, 2, 4, 5\} \\
\emptyset &\longleftrightarrow U
\end{aligned}

補集合の関係にあるペアの一例

集合トランプゲームでは、この「補集合の関係」というペアが重要になってくるゲームがいくつかあります。

べき集合

集合  X に対し、その部分集合をすべて集めてきた集合を  Xべき集合 といい、 \mathcal P(X) と表します。*4

何を言っているのかは、例を見てもらえればわかると思います。例えば、 \{1, 2, 3\} のべき集合を考えると:

 \mathcal P(\{1, 2, 3\}) = \{\emptyset, \{1\}, \{2\}, \{3\}, \{1, 2\}, \{1, 3\}, \{2, 3\}, \{1, 2, 3\}\}

 
となります。これは 集合の集合 であることに気をつけてください。

ところで、集合トランプのカードに書かれている集合は「 U = \{1, 2, 3, 4, 5\} のすべての部分集合が(各色)1 枚ずつ」でしたね。ということは、集合トランプのカード(のうち 1 色)をすべて集めた集合は  \mathcal P(U) である ということになります。

分割

たとえば、全体集合  U = \{1, 2, 3, 4, 5\} は、

 \{1, 2, 4\} \{3, 5\}
 \{1, 3\} \{2, 5\} \{4\}
 \{1\} \{2\} \{3\} \{4\} \{5\}

 
みたいに "小分けの集合" に分解することができますね。このような操作は、数学では「集合の分割」と呼ばれています。

数学的にちゃんと書くと、ある "小分けの集合" の集合  P が集合  X分割 であるとは、以下の条件を満たしていることと定義されています:

  1. "小分けの集合" の中には、空集合  \emptyset が含まれていない。( \emptyset \notin P
  2. "小分けの集合" を全部くっつけると(和を取ると) X になる。( \displaystyle \bigcup_{A \in P} A = X
  3. "小分けの集合" は、どの相異なる 2 つも共通部分が空である。(任意の  A, B \in P に対し、 A \ne B ならば  A \cap B = \emptyset

具体例を挙げると、以下はいずれも  U の分割になっています:

  •  \{\{1, 2, 4\},\ \{3, 5\}\}
  •  \{\{1, 3\},\ \{2, 5\},\ \{4\}\}
  •  \{\{1\},\ \{2\},\ \{3\},\ \{4\},\ \{5\}\}
  •  \{U\}

一方で、以下はどれも  U の分割ではありません:

  •  \{\emptyset, \{1, 3, 5\}, \{2, 4\}\}空集合が含まれている)
  •  \{\{1, 5\},\ \{2\},\ \{3\}\}(全体の和が  U にならない)
  •  \{\{1, 2, 4\},\ \{1, 3\},\ \{5\}\}(共通部分が  \emptyset にならない組 *5 が含まれている)

今のところはこんなもんで。

説明が冗長だったり、あるいは逆に説明不足だったりする点があるかもしれません。この記事の内容について何かしら疑問点などがあれば、何らかの方法で質問していただければ返答するつもりでいます。

追記

純粋な「集合論」から少し離れた応用的な概念たちの解説を、以下の記事(応用編!)に切り離しました:

*1:集合トランプで遊ぶだけなら、難しい概念はほとんど登場しません。"無限"の厄介さや公理的集合論が必要になる場面などは、集合トランプを遊んでいる限りは現れないので……

*2:実は、この記事では集合の相当関係  = をきちんと定義していないのですが……

*3:c は "complement"(補って完全にする)の頭文字です。余談ですが、高校数学の範囲では補集合を  A^c とは表さず、もっぱら  \overline A と表されているのではないでしょうか

*4: 2^X と書く流派もあります

*5:この場合は  \{1, 2, 4\} \{1, 3\} のことですね