集合トランプ
世間では「素数大富豪」「ナブラ演算子ゲーム」「ゴドマチ」などなど、数学 を題材にした様々なゲームが盛り上がりを見せていますね。そんな流れを見ていたら、わたしもひとつ?数学ゲームを思いついたので、ここで紹介します
事の発端
時は2018年10月6日、ちょうど1か月前。わたしはこのとき、集合 と呼ばれる数学の概念について考えごと *1 をしていました。"数学の概念" というと難しく聞こえますが、要は モノの集まり のことです。例を挙げると、
- という 3 つの数を集めた集合は
- 1 桁の正の奇数をぜんぶ集めた集合は
- 日本の「季節」をぜんぶ集めた集合は
といった感じですね。集めたモノを { } でくくって表すことになっています。これだけ。*2
さて、こんな「モノの集まり」についてあれこれ思案を巡らせていたら、ふと 「集合が書かれたトランプ」を作りたい!という気持ちが湧いてきたのでした。
善は急げというので、さっそく現物を作ってみました:*3
コピー用紙を裁断して、そこにいくつかの数字を書き並べただけですが、これが 集合トランプ の始まりです。
どんなの?
上の試作品第1号には、 から までの 5 つの数が、それぞれのカードごとにいくつか書かれています。 上の写真で見えている 5 枚のカードは、左から順にそれぞれ という集合を表しています。
ところで、「 から までの数をいくつか集めた集合」は、全部で 32 個あります。5 つの数字それぞれについて、その数字を集合に入れるか/入れないかの 2 通りが考えられるので、 通り、というわけです。*4
この 32 個の集合を具体的に書き並べると、
となります。数が 1 個も入ってない集合 も、何食わぬ顔してこの仲間に入ってますね。
また、試作品第 1 号ができた 3 日後くらいに、次のような試作品第 2 号が完成しました:
机の引き出しに眠っていた写真をプリントするための紙を使ったので、カードがちょっと頑丈になりました。この形式が現在主流の「集合トランプ」となっているので、詳しく解説します。
色
トランプに習って、赤・黒の 2 色を用意して 1 セットとしたので、カードの枚数はさっきの倍で 64 枚になっています。
デザイン
いわゆる「ベン図」をイメージして、集合の要素を枠線で囲ってみました。わりと集合っぽくなっていいかんじ。
先ほど話に上がった「何も入っていない集合」は 空集合 という名前がついていて、 というかっこいい記号 *5 で表されることになっているので、それをカードに書いておきました。肝心の枠の内側には何も書かれていないのが「空っぽ」って感じを前面に押し出していて、面白いと思いません?
その一方で、「今考えている中で一番"大きい"集合」はしばしば 全体集合 と呼ばれます。英語では universal set とこれまたかっこいい名前ですね。その頭文字をとって、全体集合は記号 で表されることになっているので、こちらもカードに書いておきました。
これで何が遊べるの?
このようにして「集合トランプ」というモノができたのはよいのですが、いったいこれでどんなゲームが遊べるのでしょうか?
答えは 色々 です。集合トランプは「トランプ」なので、このカード自体が何か決まった遊び方を定めるわけではないのです。すなわち、遊び方の可能性は無限に広がっているということです!
今後の記事で、集合トランプを用いて遊べる様々なゲームをどんどん紹介していこうと考えています。お楽しみに~
宣伝
この集合トランプ、数学デー や 集合トランプ公式twitter などで好評をいただいております:
{1,2,3,4,5}のすべての部分集合が書かれたカード(冪集合カード)を作ってみた方がいらしてたけど無限の広がりを持つ神ツールだった。包含スピードも大集豪も補集合カルタもポーカーも動的ババ抜きもすべて楽しかった。一番頭使ったのが「位相麻雀」 #数学デー #φカフェ数学デー pic.twitter.com/cFxckvgINy
— 鯵坂もっちょ🐟 (@motcho_tw) 2018年10月19日
"包含関係が成立する" ものを場に出すことができる「集合スピード」のプレイ動画です pic.twitter.com/JlYBMucFeY
— 集合トランプ (@set_cards) 2018年11月7日
そして、順調に事が運べば、集合トランプは 2019 年春のゲームマーケットに出展する 予定です!「集合トランプで遊んでみたい!」という方は、ぜひお越しください!
これより下はおまけの話です。そういうのに興味がある人は覗いてみるとよいでしょう
集合トランプと普通のトランプの違い
集合トランプと普通のトランプが異なっている点について、個人的に思っていることを述べてみます。なお、以降では区別のために、通常のトランプのことを 数トランプ と呼ぶことにします。*6
集合トランプの数トランプに対する最大の違いは、「2つのカードを比べるのが難しい」という点にあると考えています。言い換えれば、「集合トランプは、数トランプよりも、カードの「強さ」関係が複雑になっている」ということです。
例えば、数トランプでは「大富豪(大貧民)」というゲームを遊ぶことができますが、大富豪ではカードの「強さ」が:
という風に定められていますよね。こんな感じで、数トランプはその強弱関係をわかりやすく決めることができます。
これに対して、集合トランプの強弱関係はどうなるでしょうか。よく行われるのは、集合の 包含関係 をもって大小関係を定める、という方法ですね。しかし、こうして定まる順序は全順序になりません。すなわち、比較できないものが存在する わけです。具体的には、 と みたいなヤツらですね。
端的に言うならば、数トランプの順序関係は「細くて長い」のに対し、集合トランプの順序関係は「太くて短い」ものになっているのです。後日の記事で紹介しますが、この違いが最大限に活かされているのが 集合スピード ではないかと思っています。
また、集合の上には様々な演算が定まっています。和集合・共通部分・補集合*7 などが代表的ですね。とくに、補集合は集合の「ペア」を作るのに役立つので、これを用いたゲームがいくつも作られています。どれもまだ正式名称は定まってないですが、補集合神経衰弱、補集合かるた、それから ババ抜き なんかですね。
さらに、集合の上に位相などの構造を定めることもできます。位相を使ったゲームで最初に生まれたのが 位相麻雀 ですね。これは数トランプにはとうてい真似できない芸当なので、ぜひこの辺がかかわった面白いゲームを考えてみたいものです。