集合トランプ

次世代のトランプ「集合トランプ」で遊べるゲームを紹介しています

分割ババ抜き

(普通の)トランプで遊べる有名なゲームのひとつに「ババ抜き」がありますね。今回紹介するのは、ババ抜きに集合要素と戦略性が加わったゲーム、分割ババ抜き です!

この記事は、数学ゲーム Advent Calendar 2018 の 19 日目を担当しています:

概要

このゲームでは、集合の 分割 という概念をコンセプトにしています。*1

ざっくりと言えば、例えば

 \{1, 2, 4\} \{3, 5\}
 \{1, 3\} \{2, 5\} \{4\}
 \{1\} \{2\} \{3\} \{4\} \{5\}

 
は、それぞれ  U = \{1, 2, 3, 4, 5\} の分割になっている、といった感じです。詳しくは、以下の記事を参照するか、wikipedia などを当たってください:

ルール

通常のババ抜きよろしく、プレイヤーを 2 人以上用意して、よくシャッフルした集合トランプ全 64 枚をできるだけ均等になるように配ります。ここで、「最初にカードを 1 枚抜いておく」とかいう処理は必要ありません。64 枚すべてを配りきってしまってください。

このあとのゲームの流れは、通常のババ抜きとほとんど同様です。適当な方法で順番を決めて、順番に隣のプレイヤーの手札からカードを 1 枚引くことを繰り返していき、手札が早くなくなった順に順位がつきます。

カードの減らし方

さて、肝心なのは「捨てられるカードの条件」ですね。

手札中にある 合計 2 枚とは限らない カードの組み合わせが、 U の分割になっているならば、手札から除外することができます。(ただし、同じ集合が書かれたカードを 2 枚同時に組み合わせることはできないものとします)

具体例を挙げると、以下のような組み合わせであればよいです:

  •  \{1, 2, 4\},\ \{3, 5\}
  •  \{1, 3\},\ \{2, 5\},\ \{4\}
  •  \{1\},\ \{2\},\ \{3\},\ \{4\},\ \{5\}
  •  U(1 枚でもよい!)

逆に、以下のような組み合わせはダメです:

  •  \emptyset, \{1, 3, 5\}, \{2, 4\}空集合が含まれている)
  •  \{1, 5\},\ \{2\},\ \{3\}(全体の和が  U にならない)
  •  \{1, 2, 4\},\ \{1, 3\},\ \{5\}(共通部分が  \emptyset にならない組 *2 が含まれている)
  •  \{1, 2, 3, 4\},\ \{1, 2, 3, 4\},\ \{5\}(同じ集合が書かれたカードが 2 枚含まれている *3

ここで「手札から除外する」なんて遠回しな表現をしていることにはちゃんと理由があります。というのも、除外するカードの枚数によって「除外されたカードの行き先」が変わります:

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カードの移動のしかた

2 枚の組み合わせで除外する場合は、単に捨て札になります。(画像左上の矢印が示す移動)

しかし、2 枚ではない場合は、除外したカードを自分の場にストックしておくことができます。(画像下の矢印が示す移動)

そして、手札のカード 1 枚 と自分の場札のカード 1 枚 で、先ほどの条件 1. ~ 3. を満たす *4 組み合わせがあれば、その 2 枚を捨て札へ送ることができます。(画像右上の矢印が示す移動)

すなわち、カードを自分の場にストックしておくと、捨てられるカードの種類が増えるので、有利にゲームを進められるというわけです。

なお、このゲームの勝利条件はあくまで「手札をなくすこと」とします。つまり、自分の場に何枚カードが残っていようが、手札がなくなったらその時点で勝ち抜けです。

「ババ」の所在

以上のルールからわかるように、 \emptyset は捨てることができません。ババですね。

さらに、3 枚以上の組み合わせでカードが手札から除外されると、世界のババの数が変動します

例えば、あるプレイヤー A が  \{1\}, \{2, 4\}, \{3, 5\} という組み合わせでカードを手札から除外、自分の場札にストックしたとします。すると、 \{1\}"無駄遣い" されてしまったために、世界に 2 枚ある  \{2, 3, 4, 5\} のうちどちらか 1 枚が出せないことが確定します。ただし、プレイヤー A だけは例外で、手札にババとなった  \{2, 3, 4, 5\} が来てしまっても、場札の  \{1\} と組み合わせて捨てることができるのです。

ゲームの終わり方

以上で述べた通り、このゲームにおけるババの枚数は一定ではありません。というか、そもそも初期状態でババが 2 枚存在しているので、通常のババ抜きのように「最後の 1 人になったらゲーム終了!」とすることはできません。

そこで、プレイヤー全員の手札をすべて合わせても、その中から  U の分割が作れない 状態になったら、ゲームを終了して、その時点で持っているカードの枚数が少ない順に、残ったプレイヤーの順位を定めることにしましょう。

そして、そのような状態になっているかどうかを判定するためには、場札を見ればよいです。具体的には、

(ババの枚数)≦ 2 +(場の  U でないカードの数)- 2 ×(場の中で作れる補集合のペアの数)

 
が成り立ちます。

第 1 項の 2 は、どうやっても捨てられない  \emptyset 2 枚分のことで、第 2 項がそれ以外のババの枚数を表しています。基本的には「場にあるカードの補集合」がババとして残ることになるのですが、場の中で補集合の関係にある組み合わせが存在する場合は、それらが "打ち消し合う" ことで、ババの枚数には影響しなくなります。この補正項が、第 3 項というわけです。よって、上の式は

(ババの枚数)≦ 2 +(場の  U でないカードのうち、補集合のペアになるものを除いた枚数)

 
と言い換えることもできます。こちらの方が見た目はスッキリしますね。

なお、= ではなく ≦ なのは、場にあるカードの補集合になっている手札を 3 枚以上集めることではじめて  U の分割を作ることができる場合が存在するためです。とはいえ、ゲームの最終局面においては、このようなケースが生じている可能性はきわめて低いと考えられる*5 ため、等号が成立していると思ってよいでしょう。

以上を踏まえると、ゲームの終了判定は、カードの枚数が十分に減った状態において、

(各プレイヤーが持つ手札の枚数の合計)
= 2 +(場の  U でないカードのうち、補集合のペアになるものを除いた枚数)

 
が成り立っているかを確認する、という形で行うことができます。

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3 人プレイ時における、各プレイヤーの場の一例

例を挙げると、このような場においては、現在のババの枚数は  2 + 9 - 2 \times 1 = 9 と計算されます。 この状況においてババになっているカードは、 \emptyset 2 枚の他には  \{1, 2, 4\}, \{1, 3, 5\}, \{3, 4, 5\}, \{1, 2, 3, 4\}, \{1, 2, 3, 5\}, \{1, 2, 4, 5\}, \{2, 3, 4, 5\} ですね。これらを 2 枚組にして捨てるには、場にあるカードが必要となるためです。

派生ルール

 \emptyset の扱い

分割ババ抜きでは、カードを除外できる条件を「 U の分割であること」としていましたが、これを

 \emptyset を含むことを許した  U の分割であること」

 
と変更してみるとどうでしょう。すなわち、以下のような組み合わせでカードを捨ててもよいことにします:

  •  \{\emptyset,\ \{1, 2\},\ \{3, 4, 5\}\}
  •  \{\emptyset,\ \{1, 3\},\ \{2, 5\},\ \{4\}\}
  •  \{\emptyset,\ U\}

このルールでは、カード 2 枚からなる分割に  \emptyset をくっつけることで、カード 3 枚からなる分割にすることができます。そうすれば、自分の場にストックできるようになりますね。 \emptyset の捨て方に戦略が生まれます。

ちなみに、このルールを採用すると、ゲーム開始時においてババが世界に 1 枚も存在しません。ババ抜きとは。

補集合ババ抜き

上の条件をさらに変更して、

ちょうど 2 枚のカードからなる \emptyset を含むことを許した  U の分割であること」

 
とすれば、ゲームが非常にシンプルになります。というのも、要は「補集合の関係にあるペアが捨てられる ババ抜き」になるのです。あまり集合に慣れ親しんでいない方々は、はじめはこちらのルールで、集合トランプでのババ抜きに慣れるのがよいかもしれません。

このルールでは、通常のババ抜きと同様に、はじめに何らかのカード( U とか?)を 1 枚抜いておく必要があることに注意してください。

まとめ

その名前のイメージとは裏腹に、心理戦だけでなく戦略性もが生じる 分割ババ抜き の紹介でした。また、もっとシンプルな、いわゆる "ババ抜き" と同じ感覚で遊べる 補集合ババ抜き も、"分割ババ抜きの特殊な場合" として定まりました。

ところで、ババ抜きの他にも、通常のトランプにおける有名なゲームにはいろいろ、例えば「大富豪」「7 並べ」などがありますね。これらに "対応した" 集合トランプゲームもあるので、順を追って紹介したいと思います。お楽しみに~

*1:「概念をコンセプトにする」って「画像はイメージです」みたいな響きですね

*2:この場合は  \{1, 2, 4\} \{1, 3\} のことですね。どちらにも  1 が含まれています

*3:集合トランプのカードではなく "単なる集合" の集合として考えるならば、 \{\{1, 2, 3, 4\},\ \{1, 2, 3, 4\},\ \{5\}\} = \{\{1, 2, 3, 4\},\ \{5\}\} であり、これはちゃんと  U の分割になっています。しかし、分割ババ抜きにおいては、異なるカードは区別して考えることにします。

*4:これは「2 枚が補集合の関係にある(ただし  \emptyset, U の組み合わせを除く)」と言っても同値ですね

*5:ゲーム終盤まで  \{1\}, \{2, 4\} などの要素数が少ない集合が多く残ることは、意図的でもない限りあまり起こらなさそうですよね