集合トランプ

次世代のトランプ「集合トランプ」で遊べるゲームを紹介しています

位相麻雀

前回までは、「包含関係」や「補集合」など、比較的直感的に理解しやすいものを用いた集合トランプゲームを紹介していました。今回は、集合トランプならではの、数学要素マシマシなゲーム 位相麻雀 を紹介します!

この記事は、数学ゲーム Advent Calendar 2018 の 3 日目を担当しています:

概要

ひとことで言えば、位相麻雀は「自分の 位相 を育てる」ゲームです。「位相」という概念を†完全に†理解するのはきわめて難しいので、以下の記事で「集合トランプで遊ぶのに十分な程度の」解説をしています:

ちなみに、位相麻雀は「麻雀」の名を冠していますが、実は麻雀要素はそれほど濃くありません。*1

ルール

今回は題材が題材なので、ルール説明もちょっと数学チックに書いてみようと思います。

以下では、 n = 4,\ k = 2 とします。

プレイヤー

位相麻雀では、プレイヤーは 2 ~ 4 人を想定しています。各プレイヤーは「位相」「手札族」「バッファ領域」の 3 つの集合族 *2 を持ちます。さらに、これとは別にプレイヤー間で共有される集合族として「山札族」「捨て札族」が存在します。

位相

これを大きくする(ここに入っているカードの枚数を増やす)ことが、ゲームの目的です。なお、位相は 公開情報(表向きにして机などに並べておく)です。

この集合族は、常に  U 上の位相でなければなりません。言い換えれば、この集合族が  U 上の位相でなくなるような操作を行うことはできません。

なお、3 人以上で遊ぶ場合、同じ集合が書かれたカードが世界に各色 2 枚存在していますが、位相の中に同じ集合が書かれたカードを 2 枚入れてはいけません。

手札族

基本的には、この集合族から位相へとカードを追加していくことになります。なお、手札族は 非公開情報(他人に見せないで持っておく)です。

この集合族は、手番終了時には  n 枚以下でなければなりません。言い換えれば、手札族が  n+1 枚以上のときに手番を終了することはできません。

バッファ領域

言うなれば、テトリスの「ホールド」にあたる役割を果たす集合族です。詳しくは、後続のルール説明をご覧になってください。なお、位相と同じくバッファ領域は 公開情報 です。

この集合族には、最大でも  k 枚しかカードを入れておくことができません。言い換えれば、バッファ領域に属するカードが  k+1 枚以上になるような操作を行うことはできません。

山札族

いわゆる山札です。裏向きに積み重ねて場に置かれているので、非公開情報 です。

捨て札族

いわゆる捨て札です。これは 公開情報 です。

初期化

まず、ゲームのはじめの準備として、以下を行います:

  • 各プレイヤーに  \emptyset, U を 1 枚ずつ配り、位相とします。*3
  • 2 人プレイのときは、集合トランプのどちらか 1 色 30 枚、3 ~ 4 人プレイのときは、集合トランプの 2 色合計 60 枚をよく切って、山札族として裏向きに積み重ねて置いておきます。( \emptyset, U が除かれていることに注意してください)
  • 各プレイヤーは、山札族から  n 枚引いて手札族とします。
  • 各プレイヤーのバッファ領域は、初期状態では空とします。

以上の準備が終わったら、適当な方法でプレイヤーの手番の順番を定めて、ゲームを開始してください。

手番でできること

手番が始まったら、まず山札族から 1 枚引いて手札族に加えてください。このとき、山札族が空であれば、その時点で手番は終了し、ゲーム終了処理へ移ります。

以上の操作を行った後では、この手番中に以下の操作を任意の順で任意の回数だけ行うことができます。

位相を拡張する

自分の手札族またはバッファ領域に属するカードを任意枚選び、同時に 位相へと移動させます。位相は、条件「和と積について閉じている(位相に属するどの 2 元の和集合・共通部分も位相に属している)」が常に満たされていなければならないことに気をつけてください。

手札をバッファへ送る

自分の手札族に属するカードを 1 枚選び、バッファ領域へと移動させます。バッファ領域の要素数上限が  k 枚であることに気をつけてください。

手札を捨てる

自分の手札族に属するカードを 1 枚選び、捨て札族へと移動させます。


手番が終了する時点で、手札族が  n 枚以下になっていなければならないことに注意してください。なお、山札族から 1 枚カードを引いた後の手札族が  n 枚以下であるならば、その後何も操作をせずに手番を終了することも可能です。

手番でないときにできること

捨て札を奪う

手番のプレイヤーが手札を捨てたタイミングで、手番でないプレイヤーは、手番が回ってくるのが早い順に *4、高々 1 人まで *5 以下のいずれかを行うことができます。

  • その捨て札と、自分の手札族・バッファ領域から選んだ任意枚(0 枚でもよい)を 同時に 自分の位相へと移動させる
  • その捨て札を自分のバッファ領域へ追加する

このときも、位相の条件やバッファの要素数上限を破ってはいけません。

バッファされたカードを奪う

以上と同様のことが、バッファされたカードに対しても行えます。すなわち、手番のプレイヤーが手札をバッファしたタイミングで、手番でないプレイヤーは、手番が回ってくるのが早い順に、高々 1 人まで以下を行うことができます。

  • そのバッファされた札と、自分の手札族・バッファ領域から選んだ任意枚(0 枚でもよい)を 同時に 自分の位相へと移動させる

「自分のバッファ領域へ追加する」ことは、バッファされたカードに対しては行えません。なお、このときも、位相の条件を満たさなくなるような操作は許容されないことに注意してください。

終了処理

位相の要素数(位相に属しているカードの枚数)が多い順に、プレイヤーの順位が定まります。

プレイ風景

ある 3 人プレイ時の様子を、写真とともにお送りいたします。

ゲーム開始時の位相は、密着位相  \{\emptyset, U\} です。ここにどんどんカードを追加していくことで、より"大きな"位相へと成長させていきましょう:

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初期位相  \{\emptyset, U\}

わたしの手番が回ってきました。初期手札 4 枚に山札族から引いた 1 枚を加えて、現在の手札族はこの 5 枚からなっています:

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5 枚の手札

密着位相には、どんなカードでも入れることができます*6 はじめにどれを入れるかが迷いどころですね。

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 \{1, 5\} を追加!

ここでは、まず  \{1, 5\} を位相へと移すことにしました。こうすれば、いま手札族にある  \{1, 2, 5\} も位相に追加することができますね。実際、次に手番が回ってきたときには、 \{1, 2, 5\} を位相に加えることにしました:

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続けて  \{1, 2, 5\} も追加!

さらに、次の手番では山札族から運よく  \{1\} を引くことができたので、ダイレクトに位相へ放り込みました:

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さらに  \{1\} を追加!

どんどん位相が育っていきますね。しかしながら、常にうまく位相へとカードを追加できるわけではありません。この次の手番、わたしの手札は

 \{1, 3, 5\}, \{2, 3, 4\}, \{2, 3, 5\}, \{1, 2, 3, 4\}, \{2, 3, 4, 5\}

 
の 5 枚になりました。しかし、これらはどれも今の位相:

 \{\emptyset, \{1\}, \{1, 5\}, \{1, 2, 5\}, U\}

 
に追加することができません:

  •  \{1, 3, 5\} を追加するには、この他に  \{1, 3, 5\} \cup \{1, 2, 5\}  = \{1, 2, 3, 5\} がないといけません。
  •  \{2, 3, 4\} を追加するには、まず  \{1\} \cup \{2, 3, 4\}  = \{1, 2, 3, 4\} \{2, 3, 4\} \cap \{1, 2, 5\}  = \{2\} が必要ですね。さらに、 \{2\} が必要ということは、 \{2\} \cup \{1\}  = \{1, 2\} も要求されます。まとめると、 \{2, 3, 4\} を追加しようとすると、他に  \{1, 2, 3, 4\},\ \{2\},\ \{1, 2\} の 3 枚を用意しなければなりません。
  •  \{2, 3, 5\} を追加するには、 \{5\}, \{2, 5\}, \{1, 2, 3, 5\} の 3 枚が必要です。
  •  \{1, 2, 3, 4\} を追加するには、 \{1, 2\} が必要です。
  •  \{2, 3, 4, 5\} を追加するには、 \{5\}, \{2, 5\} の 2 枚が必要です。

どれも位相に追加できないものの、手札が 4 枚を超えているので、手札のうち少なくとも 1 枚を捨てるか、あるいはバッファに退避させないといけません。

ここでは、追加が難しい(他に 3 枚ものカードを要求される) \{2, 3, 4\} を捨てることにしました:

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 \{2, 3, 4\} を捨てた

捨てたカードは、他のプレイヤーに奪う権利が発生するので、手放すカードはできるだけ 他のプレイヤーが奪いにくいであろう ものを選ぶべきです。しかしここでは、残念なことに次の手番のプレイヤーに  \{2, 3, 4\} をバッファされてしまいました:

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捨て札を奪われてしまった!

このプレイヤーは  \{1, 2, 3, 4\} さえ手に入れれば  \{2, 3, 4\} を位相に入れることができるので、この捨て札はバッファに入れるだけの価値がある、と考えたのでしょう。しかし、実はこれは計算済みです。なぜなら、わたしは手札に  \{1, 2, 3, 4\} を 1 枚持っているからです! これを手放さない限り、このプレイヤーは  \{1, 2, 3, 4\} を確保するのは難しいだろう、という算段です。


とまあ、位相麻雀はこんな感じで進行します。全部を伝えると記事が長くなりすぎてしまうので、プレイ風景はこの辺で終えておきます。ちなみに、このゲームの勝者はこんな立派な位相を育てあげていました:

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16 個の集合からなる位相!

ちなみに、包含関係のある集合どうしを線で結んでみると、以下のような図 *7 が描けます:

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上の位相のハッセ図

綺麗な形をしてますね。みなさんも、位相麻雀で自分だけのカッコいい位相を育てましょう!

派生ルール

手札上限枚数  n、バッファ上限枚数  k

以上では、 (n, k) = (4, 2) として説明しましたが、例えば  (n, k) = (3, 2), (4, 1), (5, 1) などとすることも考えられます。

 n, k が大きくなるほど、位相に同時に追加できるカードの枚数が多くなるので、位相を大きく育てやすくなることが期待されます。しかし、そのぶん考えなければならない事項が増えるので、位相麻雀に慣れた人向けといったところでしょうか。

反対に、 n, k が小さくなれば、カードを捨てなければならない場面が増えるため、カードの取捨選択の戦略が重要になってきます。これはこれで頭を使いますね。

ドラ

申し訳程度の麻雀追加要素ですね。ゲーム開始時に、山札から 1 枚カードを抜いておき、表ドラ(公開情報として、表向きで置いておく)あるいは裏ドラ(非公開情報として、裏向きで置いておく)とするルールです。

ゲーム終了時に、各プレイヤーは「ドラである集合に加え、自分の手札族・バッファ領域から選んだ任意枚(0 枚でもよい)を同時に自分の位相へと移動させることができる」ならば、これを行うことができます。*8 その際、ドラである集合は、表ドラならカード 2 枚分、裏ドラならカード 3 枚分 として扱います。

まとめ

位相麻雀 は、集合トランプ上に定まっている遊び方のなかでも、特に "数学らしい" もののひとつですね。このゲームが「位相」というふわっとした概念に慣れ親しむきっかけになれれば幸いです。*9

しかしまあ、本記事において位相麻雀のルールはひととおり説明しましたが、やはり文字や写真だけでは、どういうゲームなのか伝わりにくいですよね。後日、機会を見つけて、位相麻雀を遊んでいる様子の動画を撮影しようかと思っています。

さて、集合トランプで遊べるゲームはまだまだたくさん考案しているので、今後もどんどん記事にして紹介していく所存です。お楽しみに~

*1:そもそもわたしが麻雀について詳しく知らないんですよね

*2:集合トランプのカード何枚かの集合のこと

*3:プレイヤーが 3 人以上の場合は  \{\emptyset, U が不足しますが、その場合は自前で仮カードを用意するか、心の目で補ってください

*4:例えば、プレイヤーが A, B, C, D の 4 人存在し、この順に(A → B → C → D → A → ……)手番が回っているとします。このとき、B が手札を捨てた場合、「手番が回ってくるのが早い順」は C → D → A となります

*5:上の注釈における例で、B の捨てたカードを C が奪った場合は、D や A にカードを奪う権利は回ってこない、ということを意味します

*6:任意の  A \subset U に対し、 \{\emptyset, A, U\} U 上の位相をなすことが分かると思います

*7:このような図は ハッセ図 と呼ばれています

*8:複数のプレイヤーがこの操作を可能な場合は、その全員がそれを行うことができます。ドラであるカードは 1 枚しかありませんが、ここでは "仮想的に" ドラである集合を位相に加える、という処理になります

*9:とはいえ、集合トランプでは有限集合上の位相しか考えられないので、ここで出てくる位相の "位相っぽさ" は薄いのですが……

補集合かるた

前回のような「補集合の関係にあるペアを探す」集合トランプゲームは、「補集合神経衰弱」の他にもいくつか考案されています。今回はそのうちのひとつ、補集合かるた の紹介をします!

概要

「補集合の関係にあるペア」とは、「合わせてぴったり全体集合  U になるもの」のことでしたね。例えば、 \{1, 2, 4\} \{3, 5\} \{2\} \{1, 3, 4, 5\} \emptyset U みたいな組み合わせです。詳しくは以下の記事で説明していますが、たぶんこの解説を見なくてもこのゲームは遊べると思います:

補集合かるたでは、このペアを使った「かるた」を行います。なんと "トランプ" で "かるた" を遊べるのです!

ルール

一般的なかるたと同じく、2 人以上のプレイヤーと、それとは別に「読み人」を 1 人用意します。そして、取り札として、集合トランプのどちらか 1 色 32 枚を並べます:

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場にちらばった取り札

残ったもう 1 色のカードは、そのうち何枚か(2 ~ 3 枚程度)抜いて、読み札として読み人が持っておきます。*1

準備が整ったら、読み人は読み札に書かれた集合を読み上げます。ちなみに、集合はここでは以下のように読むとよいです:

  • 書かれた数は、小さい順に読む
  • すべての数を読み上げたら、最後に「以上」などと添えて、読み上げの終了を伝える

読み方の具体例をいくつか挙げておきます:

  •  \{3, 5\} :「3、5、以上」
  •  \{1, 3, 4\} :「1、3、4、以上」
  •  \{2\} :「2、以上」
  •  \emptyset :「以上」

さて、プレイヤーは、読み札が読まれはじめたら、取り札の中から 読まれた集合の「補集合」を探し出して、早い者勝ちでそのカードを取ります。例えば、読み人が「3、5、以上」と告げたなら、プレイヤーは  \{1, 2, 4\} を探します。もし間違った札を取ってしまった場合は、そのプレイヤーはお手つきとして「1回休み」のペナルティを受けます。*2

これを繰り返して、読み札がなくなったらゲームは終了です。取った札が多い順にプレイヤーの順位が決定します。

プレイ動画

数学デー にて補集合かるたを遊んだときの様子が、以下の動画です:

所感

単純なルールながら、読まれた集合の補集合を考えながらカードを探すのは、意外と頭を使います。

また、百人一首にある「決まり字」という概念が、補集合かるた上にも存在しています!

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カードが減ってくると……?

ゲームが進行して何枚かのカードが取られ、以上のような場になっているとしましょう。ここで、次の読み札が  \{1, 4, 5\} であれば、読み人は「1、4、5、以上」と読み上げるわけですが、実は「1、4」の時点で読み札は一意に定まることがわかります。読みが「1、4」で始まる集合は  \{1, 4\},\ \{1, 4, 5\} の 2 つしかありませんが、このうち前者の補集合  \{2, 3, 5\} は場に残っていないため、取るべき札は  \{1, 4, 5\} の補集合  \{2, 3\} と確定するわけです。決まり字を考えると、より素早くカードを取ることができるようになりますが、あれこれ考えすぎると「補集合を取る」操作がおろそかになってしまいがちです。むずかしい。

さらにこのゲーム、読み人側も楽しめます。特に  \emptyset「以上!」と読むのとか。

まとめ

読まれた集合の「補集合」を探すかるた、補集合かるた の紹介でした。

次回は「位相 (topology)」という概念が登場する、集合トランプならではのオリジナルゲームの紹介をします。お楽しみに~

*1:残った 32 枚すべてを読み札とすると、最後の数枚が自明な試合になってしまうので

*2:あるいは、ペナルティとして「-1点(取った札を 1 枚返却する)」なども考えられますね。お好みでどうぞ

補集合神経衰弱

今回紹介する集合トランプゲームは、補集合神経衰弱 です!

概要

ゲーム名にも入っている「補集合」とは、ざっくりと要約すると「合わせてぴったり全体集合  U になるもの」のことです。例えば、 \{1, 2, 4\} の補集合は  \{3, 5\} といった感じですね。詳しいことは、以下の記事で解説しています:

以上の説明を聞くと、「補集合神経衰弱」がいったいどのようなゲームなのかは、大方察せてしまうかも?

ルール

まずは、プレイヤーを 2 人以上 *1 用意してください。そうしたら、集合トランプのどちらか 1 色 32 枚を、伏せた状態で並べます *2

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適当に並べられたカード

じゃんけんなどの適当な方法で手番を決めたら、ゲームスタートです。手番のプレイヤーは、伏せられたカードのうち 2 枚を選んで、ひっくり返します:

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 \{1, 2, 4\} \{3, 5\}

ここで、上の写真のように、表向きになった 2 枚のカードが互いに補集合の関係にあるようなペアであれば、その 2 枚のカードを手に入れることができます。そして、ボーナスとしてもう一度手番を行うことができます。この辺のルールは通常の神経衰弱と同様ですね。

カードを手に入れられなかった場合は、手番が次のプレイヤーに移ります。これを繰り返して、伏せられたカードがなくなったら、ゲーム終了となります。そして、獲得したカードの枚数が多い順に順位がつきます。

所感

通常のトランプで行う神経衰弱との大きな違いは、カードの内容の覚えやすさ ですね。 \emptyset \{1\} などの単純な集合は覚えやすい一方で、 \{1, 2\}, \{1, 5\}, \{1, 2, 5\}, \{1, 2, 4, 5\} なんかは見るからに混同してしまいやすそうですよね。

さらに、同一のカード 2 枚がペアになるわけではない 点も、混乱を招きます。これは「合計が 14 になるもの同士がペアになる、普通のトランプ上の神経衰弱」を考えてもらえればわかりやすいのではないでしょうか。頭の中で「補集合をとる」という操作を行わなければならないため、その間に記憶しているカードが忘却の彼方へと消え去ってしまうのです……

ここからは少し発展的な話になりますが、 U = \{1, 2, 3, 4, 5\} の部分集合は、

 \displaystyle \mathcal P(U) \ni S \mapsto \sum_{n \in S} 2^{n-1} \in \{0, 1, \cdots, 31\}

という写像により、 0 から  31 までの整数と 1 対 1 に対応させることができます。これは、要は「集合の各要素を 2 進数の各桁に対応させている」のです:

 \begin{aligned}
\emptyset &\mapsto (00000)_2 = 0 \\
\{1\} &\mapsto (00001)_2 = 1 \\
\{2\} &\mapsto (00010)_2 = 2 \\
\{1, 2\} &\mapsto (00011)_2 = 3 \\
\{3\} &\mapsto (00100)_2 = 4 \\
&\vdots \\
\{1, 3, 4, 5\} &\mapsto (11101)_2 = 29 \\
\{2, 3, 4, 5\} &\mapsto (11110)_2 = 30 \\
\{1, 2, 3, 4, 5\} &\mapsto (11111)_2 = 31
\end{aligned}


この対応を用いれば、補集合神経衰弱では「対応する数が足して  31 になる」ものをペアとみなせばよいことになります。しかし、集合を数に対応させれば、記憶すること自体は簡単になるかもしれませんが、たくさんの数を記憶しながら計算を行うのは、それはそれで至難の業ですね。むずかしい。

まとめ

補集合 どうしがペアになる、記憶力が大いに試される神経衰弱、補集合神経衰弱 の紹介でした。

次回紹介するゲームも、神経衰弱とはまた別の「補集合を探す」集合トランプゲームです。お楽しみに~

*1:己の記憶力を試すために 1 人で遊ぶのも、それはそれで良いとおもいます

*2:32 枚では物足りなくなってしまった方は、2 色合計 64 枚を使うと、よりハードな神経衰弱が楽しめるでしょう

集合スピード

前回の記事では「集合トランプ」が何たるかを説明しました:

今回からは、いよいよこのカードを使って遊べるゲームの紹介に入ります。 第1回で紹介するのは、最初に誕生した遊び方である 集合スピード です!

概要

集合スピードとはその名の通り、通常のトランプで遊べるゲームの有名どころである「スピード」に似通ったゲームです。2人で対戦するゲームで、自分が持つカードを場に早い者勝ちで重ねていき、先に自分のカードをなくした方の勝ち、というシンプルなものです。しかし、通常のトランプで行うスピードに比べて、カードの出し方の戦略性が増しています。詳細は後ほど。

ところで、「数学を題材にしたゲーム」と聞くと、数学について詳しくないと遊べないんじゃない?と思われるかもしれませんが、ご安心ください。集合スピードを遊ぶには、集合の 包含関係 さえ知っていれば OK です!

「包含関係?なんぞそれ」という方は、以下の記事、あるいは他のネットの情報などを参考にしてみてください:

ルール

プレイヤーは 2 人です。各プレイヤーは、集合トランプのどちらか 1 色 32 枚をよく切って伏せ、それぞれの山札とします。そして、最初にそこから 4 枚ずつめくって自分の手元に置き、手札とします:

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初期配置図

双方の準備が整い次第、「せーの」などの掛け声とともに、各々の山札の上から 1 枚を取り、同時に真ん中の場に置きます:

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せーの!

ここから、「ある条件」を満たしている自分の手札を、早い者勝ちでどんどん場札に重ねていくわけですが、その条件とは「包含関係が成立している」ことです。

例えば、上の写真の状況において出せる手札は、以下のようになります:

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上の写真の場合において出せるカード

  • 黒の  \{1\} は、 \{2, 3\} に対しては含んでも含まれてもいないので、 \{2, 3\} の上に出すことはできません。一方で、 \{1, 2, 4\} には含まれているため、 \{1, 2, 4\} の上には重ねて出すことができます。
  • 黒の  \{2, 4\} も同様に、 \{1, 2, 4\} に含まれているので、 \{1, 2, 4\} の上には出せます。
  • 黒の  \{2, 3, 5\} は、 \{2, 3\} を含んでいるので、 \{2, 3\} の上に出すことができます。包含の"向き"は関係なく、「含む」「含まれる」のどちらか一方さえ成り立っていれば、その手札は出せる わけですね。
  • 黒の  \{1, 2, 3, 4\} は、 \{2, 3\} \{1, 2, 4\} のどちらも含んでいるので、どちらか好きな方に重ねて出すことができます。
  • 赤の  \{1\} は、黒の  \{1\} と同じく、 \{1, 2, 4\} の上にのみ出せます。このゲームでは、カードの色が出し方のルールに影響することはありません。
  • 赤の  \{1, 3\} は、 \{2, 3\} \{1, 2, 4\} のどちらとも包含関係をもたないので、この場では出すことができません。
  • 赤の  \{1, 2, 4\} は、場の  \{1, 2, 4\} の上に重ねて出すことができます。同じ集合どうしにも、包含関係は成り立つからです。
  • 赤の  \emptyset ですが、空集合はどんな集合にも含まれているので、どんな場にも出すことができます!いわゆる「オールマイティ」ですね。なお、全体集合  U も、あらゆる集合を含んでいるため、空集合と同じく どんな場にも出すことができます

その他のルールは、普通のスピードと同じです:

  • 手札を場に出したら、手札が 4 枚になるまで山札のいちばん上から補充することができます。
  • どちらのプレイヤーも出せる手札がなくなってしまった場合は、それぞれの山札の一番上(山札がない場合は、手札の好きな 1 枚)から同時に場に置いて、仕切り直しとします。
  • 先に山札・手札をなくしたプレイヤーの勝利です。ただし、「仕切り直し」により双方の最後の 1 枚の手札が同時に場に置かれた場合は、引き分けとなります。

プレイ動画

集合スピードのプレイ動画を、集合トランプ公式 twitter にて投稿しています:

所感

先に述べたように、集合スピードは、通常のトランプで行うスピードよりも戦略性が高まっています:

  • 実は、カードに書かれている数の個数によって、そのカードの出しやすさが異なっています。具体的には、書かれている数が 1個, 4個のカードは出しやすく、2個, 3個のカードは出しにくい ことがわかります。出しにくいカードは積極的に処理していきたいところですね。
  • オールマイティである 空集合  \emptyset や 全体集合  U は、うまく使えば素早くたくさんのカードを減らすことができます。しかし、相手がそのようなカードを持っていると気づければ、相手がそのカードを出したのを見計らって、自分のカードをその上に滑り込ませる といった、相手のカードを利用する高等テクニックも考えられますね。

などなど、考察できることはたくさんあるのですが、この記事はあくまで「集合スピード・ルール説明編」にとどめておきます。詳細はまた後日「集合スピード・攻略編」なる別記事を作って、そこにまとめようかなと。

まとめ

集合の 包含関係 を用いた、ちょっと思考力を問われるスピード、集合スピード の紹介でした。

次回・次々回は、"あの"有名なゲームに 補集合 という概念を持ち込んだものを紹介する予定です。お楽しみに~

集合トランプにまつわる集合の諸概念(基礎編)

前回の記事で、数学における 集合 を題材にしたカード「集合トランプ」を紹介しました:

さて、このカードを用いてゲームを遊ぼうとすると、どうしても「集合に関する知識」が必要になります。なので、数学に苦手意識がある方などは、このカードで遊ぶことを諦めているかもしれません。しかし、そう思うのはまだ早いです。集合に関する知識は、直感的に理解できるものばかりです! *1

以下では、集合トランプに関わる基礎的な知識を できるだけわかりやすく 伝えることを試みています。すこし数が多いかもしれませんが、ここで紹介されている知識を一度に全部頭に入れる必要はありません。これらのうち 1 つだけを知っていれば遊べるゲームもあります。集合トランプを通じて、だんだんと集合の知識を身に着けていけば、いつのまにか色々なゲームが遊べるようになっているでしょう!

目次

集合

集合とは「モノの集まり」です。これは集合トランプの説明記事でも触れているので、ここでは詳細を省かせていただきます。

属する

あるモノが集合に「入っている」ことを、数学では「属する」とカッコつけて呼んでいます。例を挙げると:

  • 集合  \{1, 3\} に属している数は  1 3 のみです。 2 4 5 は属していません。
  • 集合  \{4\} には、ただ 1 つ  4 だけが属しています。

なお、集合は「図にして描いてみる」ことで、そのイメージが掴みやすくなるかもしれません:

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集合  \{1, 3\} \{4\} の図

なお、数学では、ある  x というモノが  A という集合に属していることを、 \in という記号を使って  x \in A と表します。集合トランプで遊んでいるときにこの記号が現れることはありませんが、数学ではあちこちでこの記号が現れるので、説明だけしておきました

余談:"文字" はこわくない

ところで、ちょっと余談をさせてください。数学に苦手意識がある方は、 x とかの文字が現れると身構えてしまうかもしれませんが、こういう文字は、ただ単に モノに名前をつけている だけです。たとえば:

「ある数とある数を足した結果が別のある数になっていることは、最初の 2 つの数の間に  + を書き、それと別のある数を  = で結ぶことで表される」

という説明があったとします。でもこれ、なんかあちこちで「数」って言ってて、どういうことかよくわかんないですよね。そこで、この説明に出てきた「数」それぞれに名前をつけてあげると、次のようになります:

「ある数  a b を足した結果が別のある数  c になっていることは、 a + b = c と表される」

前の説明と比べて、いくぶんわかりやすくなっているのではないでしょうか。モノに名前をつけるということは、その区別ができるようになる という点で、とても大切なことなのです!

ですので、文字に苦手意識がある方も、モノにつけられた「名前」だと思って、ぜひ慣れ親しんであげてください~

包含関係

2 つの集合があるとき、その間に「含む / 含まれる」という関係が成り立つことがあります。これは、言葉で説明するよりも、具体例を見たほうがわかりやすいかと思われます:

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 \{1, 2\} \{1, 2, 4\} にすっぽりと収まる

この図は、 \{1, 2\} という集合が、 \{1, 2, 4\} という集合に含まれていることを表しています。言葉で説明すれば、「 \{1, 2\} に属している  1 2 という数が、どちらも  \{1, 2, 4\} に属している」ということです。

ちなみに、ある  A という集合が、 B という集合に含まれているとき、記号  \subset を使って  A \subset B と表すことになっています。この記号を使えば、上の例は  \{1, 2\} \subset \{1, 2, 4\} と表すことができますね。

別の例を挙げると、集合  \{3, 5\} は 集合  \{1, 3, 4\} には含まれていません。なぜなら、 \{3, 5\} に属している数  5 が、 \{1, 3, 4\} には属していないからです。図にすると、こういうことですね:

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 \{3, 5\} \{1, 3, 4\} に含まれない: 5 がはみ出している

こういう「含まれていない」という関係は、記号  \not\subset で表されます。たとえば、 \{3, 5\} \not\subset \{1, 3, 4\} といった感じですね。「等しくない」ことを表す記号  \ne のように、もとの記号に斜線を入れて表現しています。

集合の包含関係について、いくつか例を挙げておきます。含む・含まれるという考え方は、集合トランプでわりとよく出てくるので、ここでしっかりとそのイメージをつかんでいってください:

  •  \{2, 5\} \subset \{1, 2, 4, 5\}
    •  \{2, 5\} \{1, 2, 4, 5\} に含まれる、ということです。
    •  \{1, 2, 4, 5\} \{2, 5\} を含む、と言い換えることもできますね。
  •  \{1, 2, 3, 4\} \not\subset \{2, 3, 4, 5\}
    •  \{2, 3, 4, 5\} 1 が属していないので、 \{1, 2, 3, 4\} \{2, 3, 4, 5\} に含まれません。
  •  \{1, 2, 3\} \subset \{1, 2, 3\}
    • 同じ集合どうしには、包含関係が成り立ちます。言われてみると確かに、という感じですよね。
  •  \{1, 4\} \subset \{1, 2, 3, 4, 5\}
    • この右側にある集合には、集合トランプにおいて 全体集合  U という名前がついていましたね。全体集合  U は、どんな集合をも含んでいる という特徴があります。
  •  \emptyset \subset \{2, 3, 5\}
    • 実は、空集合  \emptyset は、どんな集合にも含まれています!これは言葉で説明するのがちょっと難しいのですが、「空集合に属しているモノはすべて、他のどんな集合にも属している」からです。そもそも、空集合に属しているモノなんて無い ので、それら(0 個)はすべて 他のどんな集合にも属しているじゃん!というトリックが働いているのです。

和集合

集合においても「和」を考えることができて、それは直感的に言うと 集合をくっつける ことです。 例えば、2 つの集合  \{1, 3, 4\}, \{3, 5\}和集合 は、 \{1, 3, 4, 5\} となります:

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2 つの集合(左)を「くっつけた」ものが、それらの和集合(右)

一般に、2 つの集合  A, B があったとき、その和集合は「 A Bどっちかには入ってるモノを集めた集合」として定めることができます。

また、 A B の和集合は  A \cup B と表記することになっています。上で示した例であれば、

 \{1, 3, 4\} \cup \{3, 5\} = \{1, 3, 4, 5\}

 
と書けるわけです。*2

いくつか具体例を記しておきます:

  •  \{2\} \cup \{1, 3\} = \{1, 2, 3\}
  •  \{1, 2, 4\} \cup \{3, 5\} = \{1, 2, 3, 4, 5\}
  •  \{1, 3, 5\} \cup \emptyset = \{1, 3, 5\}
    • 空集合  \emptyset には何も属していないので、他の集合にくっつけても何も変わりません。
  •  \{1, 2, 3, 4, 5\} \cup \{1, 4\} = \{1, 2, 3, 4, 5\}
    • 全体集合  U = \{1, 2, 3, 4, 5\} には既に(集合トランプで登場する)すべての数が属しているので、そこに何をくっつけようが、全体集合のまま変化しません。

共通部分

2 つの集合  A, B共通部分 とは、その名に違わず「 A Bどっちにも入ってるモノを集めた集合」を意味します。 例えば、2 つの集合  \{1, 3, 4\}, \{3, 5\} の共通部分は  \{3\}、ということです:

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2 つの集合(左)の共通部分(右)

わかりやすい名前なのはよいことです。他にも具体例を挙げておきますね:

  •  \{1, 4, 5\} \cap \{1, 3, 4\} = \{1, 4\}
  •  \{1, 2, 4\} \cap \{3, 5\} = \emptyset
  •  \emptyset \cap \{1, 3, 5\} = \emptyset
    • 空集合  \emptyset は空っぽなので、共通部分をとるとやはり空っぽになってしまいます。
  •  \{1, 4\} \cap \{1, 2, 3, 4, 5\} = \{1, 4\}
    • 全体集合  U = \{1, 2, 3, 4, 5\} には(集合トランプで登場する)すべての数が属しているので、他の集合と共通部分をとっても、元の集合のまま何も変わりません。

補集合

ある集合  A があったとき、その 補集合 というものが定まります。これは、端的に言えば「 A に入っていないモノすべて を集めた集合」です。具体例を挙げれば、集合  \{1, 2, 4\} の補集合は  \{3, 5\} です:

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ある集合(左)の「それ以外の部分」が、その補集合(右)

別の言葉で言えば、ある集合  A の補集合とは「全体集合  U から  A の部分を取り除いた集合」と言えますね。あるいは「くっつけると ピッタリ 全体集合  U になる」とも言えるでしょう。

ちなみに、集合  A の補集合は、ここでは  A^c と表すことにします。*3 この記法を用いれば、上の例は  \{1, 2, 4\}^c = \{3, 5\} と書けますね。

ところで、この逆の関係、つまり  \{3, 5\}^c = \{1, 2, 4\} が成り立っていることもわかるかと思います。このように、補集合の関係にある集合は、ペアをなしている ことが見て取れます:

 \begin{aligned}
\{1, 2, 4\} &\longleftrightarrow \{3, 5\} \\
\{1, 5\} &\longleftrightarrow \{2, 3, 4\} \\
\{3\} &\longleftrightarrow \{1, 2, 4, 5\} \\
\emptyset &\longleftrightarrow U
\end{aligned}

補集合の関係にあるペアの一例

集合トランプゲームでは、この「補集合の関係」というペアが重要になってくるゲームがいくつかあります。

べき集合

集合  X に対し、その部分集合をすべて集めてきた集合を  Xべき集合 といい、 \mathcal P(X) と表します。*4

何を言っているのかは、例を見てもらえればわかると思います。例えば、 \{1, 2, 3\} のべき集合を考えると:

 \mathcal P(\{1, 2, 3\}) = \{\emptyset, \{1\}, \{2\}, \{3\}, \{1, 2\}, \{1, 3\}, \{2, 3\}, \{1, 2, 3\}\}

 
となります。これは 集合の集合 であることに気をつけてください。

ところで、集合トランプのカードに書かれている集合は「 U = \{1, 2, 3, 4, 5\} のすべての部分集合が(各色)1 枚ずつ」でしたね。ということは、集合トランプのカード(のうち 1 色)をすべて集めた集合は  \mathcal P(U) である ということになります。

分割

たとえば、全体集合  U = \{1, 2, 3, 4, 5\} は、

 \{1, 2, 4\} \{3, 5\}
 \{1, 3\} \{2, 5\} \{4\}
 \{1\} \{2\} \{3\} \{4\} \{5\}

 
みたいに "小分けの集合" に分解することができますね。このような操作は、数学では「集合の分割」と呼ばれています。

数学的にちゃんと書くと、ある "小分けの集合" の集合  P が集合  X分割 であるとは、以下の条件を満たしていることと定義されています:

  1. "小分けの集合" の中には、空集合  \emptyset が含まれていない。( \emptyset \notin P
  2. "小分けの集合" を全部くっつけると(和を取ると) X になる。( \displaystyle \bigcup_{A \in P} A = X
  3. "小分けの集合" は、どの相異なる 2 つも共通部分が空である。(任意の  A, B \in P に対し、 A \ne B ならば  A \cap B = \emptyset

具体例を挙げると、以下はいずれも  U の分割になっています:

  •  \{\{1, 2, 4\},\ \{3, 5\}\}
  •  \{\{1, 3\},\ \{2, 5\},\ \{4\}\}
  •  \{\{1\},\ \{2\},\ \{3\},\ \{4\},\ \{5\}\}
  •  \{U\}

一方で、以下はどれも  U の分割ではありません:

  •  \{\emptyset, \{1, 3, 5\}, \{2, 4\}\}空集合が含まれている)
  •  \{\{1, 5\},\ \{2\},\ \{3\}\}(全体の和が  U にならない)
  •  \{\{1, 2, 4\},\ \{1, 3\},\ \{5\}\}(共通部分が  \emptyset にならない組 *5 が含まれている)

今のところはこんなもんで。

説明が冗長だったり、あるいは逆に説明不足だったりする点があるかもしれません。この記事の内容について何かしら疑問点などがあれば、何らかの方法で質問していただければ返答するつもりでいます。

追記

純粋な「集合論」から少し離れた応用的な概念たちの解説を、以下の記事(応用編!)に切り離しました:

*1:集合トランプで遊ぶだけなら、難しい概念はほとんど登場しません。"無限"の厄介さや公理的集合論が必要になる場面などは、集合トランプを遊んでいる限りは現れないので……

*2:実は、この記事では集合の相当関係  = をきちんと定義していないのですが……

*3:c は "complement"(補って完全にする)の頭文字です。余談ですが、高校数学の範囲では補集合を  A^c とは表さず、もっぱら  \overline A と表されているのではないでしょうか

*4: 2^X と書く流派もあります

*5:この場合は  \{1, 2, 4\} \{1, 3\} のことですね

集合トランプ

世間では「素数大富豪」「ナブラ演算子ゲーム」「ゴドマチ」などなど、数学 を題材にした様々なゲームが盛り上がりを見せていますね。そんな流れを見ていたら、わたしもひとつ?数学ゲームを思いついたので、ここで紹介します

事の発端

時は2018年10月6日、ちょうど1か月前。わたしはこのとき、集合 と呼ばれる数学の概念について考えごと *1 をしていました。"数学の概念" というと難しく聞こえますが、要は モノの集まり のことです。例を挙げると、

  •  1, 2, 4 という 3 つの数を集めた集合は  \{1, 2, 4\}
  • 1 桁の正の奇数をぜんぶ集めた集合は  \{1, 3, 5, 7, 9\}
  • 日本の「季節」をぜんぶ集めた集合は  \{春, 夏, 秋, 冬\}

といった感じですね。集めたモノを { } でくくって表すことになっています。これだけ。*2

さて、こんな「モノの集まり」についてあれこれ思案を巡らせていたら、ふと 「集合が書かれたトランプ」を作りたい!という気持ちが湧いてきたのでした。

善は急げというので、さっそく現物を作ってみました:*3

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集合トランプ試作品(第 1 号)

コピー用紙を裁断して、そこにいくつかの数字を書き並べただけですが、これが 集合トランプ の始まりです。

どんなの?

上の試作品第1号には、 1 から  5 までの 5 つの数が、それぞれのカードごとにいくつか書かれています。 上の写真で見えている 5 枚のカードは、左から順にそれぞれ  \{3\}, \{2, 5\}, \{2, 4, 5\}, \{1, 3, 4, 5\}, \{1, 2, 3, 4, 5\} という集合を表しています。

ところで、「 1 から  5 までの数をいくつか集めた集合」は、全部で 32 個あります。5 つの数字それぞれについて、その数字を集合に入れるか/入れないかの 2 通りが考えられるので、 2^5 = 32 通り、というわけです。*4

この 32 個の集合を具体的に書き並べると、

 \{\},

 \{1\}, \{2\}, \{3\}, \{4\}, \{5\},

 \{1,2\}, \{1,3\}, \{1,4\}, \{1,5\}, \{2,3\}, \{2,4\}, \{2,5\}, \{3,4\}, \{3,5\}, \{4,5\},

 \{1,2,3\}, \{1,2,4\}, \{1,2,5\}, \{1,3,4\}, \{1,3,5\}, \{1,4,5\}, \{2,3,4\}, \{2,3,5\}, \{2,4,5\}, \{3,4,5\},

 \{1,2,3,4\}, \{1,2,3,5\}, \{1,2,4,5\}, \{1,3,4,5\}, \{2,3,4,5\},

 \{1,2,3,4,5\}

となります。数が 1 個も入ってない集合  \{\} も、何食わぬ顔してこの仲間に入ってますね。

また、試作品第 1 号ができた 3 日後くらいに、次のような試作品第 2 号が完成しました:

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集合トランプ試作品(第 2 号)

机の引き出しに眠っていた写真をプリントするための紙を使ったので、カードがちょっと頑丈になりました。この形式が現在主流の「集合トランプ」となっているので、詳しく解説します。

トランプに習って、赤・黒の 2 色を用意して 1 セットとしたので、カードの枚数はさっきの倍で 64 枚になっています。

デザイン

いわゆる「ベン図」をイメージして、集合の要素を枠線で囲ってみました。わりと集合っぽくなっていいかんじ。

先ほど話に上がった「何も入っていない集合」は 空集合 という名前がついていて、 \emptyset というかっこいい記号 *5 で表されることになっているので、それをカードに書いておきました。肝心の枠の内側には何も書かれていないのが「空っぽ」って感じを前面に押し出していて、面白いと思いません?

その一方で、「今考えている中で一番"大きい"集合」はしばしば 全体集合 と呼ばれます。英語では universal set とこれまたかっこいい名前ですね。その頭文字をとって、全体集合は記号  U で表されることになっているので、こちらもカードに書いておきました。

これで何が遊べるの?

このようにして「集合トランプ」というモノができたのはよいのですが、いったいこれでどんなゲームが遊べるのでしょうか?

答えは 色々 です。集合トランプは「トランプ」なので、このカード自体が何か決まった遊び方を定めるわけではないのです。すなわち、遊び方の可能性は無限に広がっているということです!

今後の記事で、集合トランプを用いて遊べる様々なゲームをどんどん紹介していこうと考えています。お楽しみに~

宣伝

この集合トランプ、数学デー集合トランプ公式twitter などで好評をいただいております:

そして、順調に事が運べば、集合トランプは 2019 年春のゲームマーケットに出展する 予定です!「集合トランプで遊んでみたい!」という方は、ぜひお越しください!




これより下はおまけの話です。そういうのに興味がある人は覗いてみるとよいでしょう


集合トランプと普通のトランプの違い

集合トランプと普通のトランプが異なっている点について、個人的に思っていることを述べてみます。なお、以降では区別のために、通常のトランプのことを 数トランプ と呼ぶことにします。*6

集合トランプの数トランプに対する最大の違いは、「2つのカードを比べるのが難しい」という点にあると考えています。言い換えれば、「集合トランプは、数トランプよりも、カードの「強さ」関係が複雑になっている」ということです。

例えば、数トランプでは「大富豪(大貧民)」というゲームを遊ぶことができますが、大富豪ではカードの「強さ」が:

 \rm 3 < 4 < 5 < 6 < 7 < 8 < 9 < 10 < J < Q < K < A < 2

という風に定められていますよね。こんな感じで、数トランプはその強弱関係をわかりやすく決めることができます。

これに対して、集合トランプの強弱関係はどうなるでしょうか。よく行われるのは、集合の 包含関係 をもって大小関係を定める、という方法ですね。しかし、こうして定まる順序は全順序になりません。すなわち、比較できないものが存在する わけです。具体的には、 \{1, 2\} \{1, 3, 4\} みたいなヤツらですね。

端的に言うならば、数トランプの順序関係は「細くて長い」のに対し、集合トランプの順序関係は「太くて短い」ものになっているのです。後日の記事で紹介しますが、この違いが最大限に活かされているのが 集合スピード ではないかと思っています。

また、集合の上には様々な演算が定まっています。和集合・共通部分・補集合*7 などが代表的ですね。とくに、補集合は集合の「ペア」を作るのに役立つので、これを用いたゲームがいくつも作られています。どれもまだ正式名称は定まってないですが、補集合神経衰弱補集合かるた、それから ババ抜き なんかですね。

さらに、集合の上に位相などの構造を定めることもできます。位相を使ったゲームで最初に生まれたのが 位相麻雀 ですね。これは数トランプにはとうてい真似できない芸当なので、ぜひこの辺がかかわった面白いゲームを考えてみたいものです。

*1:具体的には、いわゆる「レポート」です

*2:難しいことを考えようとすればいくらでも考えられるのですが、ここではこのくらいの認識で全然問題ありません

*3:とうぜん、元々の考え事であったレポートは後回しにされてしまったので、後日の自分が泣く泣く片付けるハメになりました

*4:補足しておくと、ひとつの集合に同じ数は 2 つ以上入らないことになっています。具体的には、 \{1, 1, 2\} といった集合は  \{1, 2\} と同じものとして扱われます

*5:よく間違われているのですが、ギリシャ文字 \phi ではありません

*6:一般のベクトルに対し、"普通の"ベクトルを"数ベクトル"と呼ぶことに習いました

*7:575